2026.07.03
NEWS・プラットフォーム受入照会時間を短縮し、搬送困難事案を減少 NSER mobile(救急隊アプリ)の導入による情報伝達の変革と運用効果
札幌市消防局 岸山様 |第37回北海道救急医学会 救急隊員部会研修会 発表報告
サマリー
札幌市消防局が令和6年2月より救急隊アプリの本運用を開始
「視覚的な情報共有」により、受入照会時間の短縮と搬送困難事案の減少を実現
市内医療機関の多数が参画し、搬送人員の約9割をアプリでデータ共有
救急出動件数の増加や現場活動時間の延伸は、全国の消防本部で共通の課題となっています。
政令指定都市である北海道・札幌市消防局では、令和6年2月より救急隊アプリを本格導入し、救急現場から医療機関への情報伝達を従来の「電話口頭」から「データ通信」による視覚的な情報共有を主体とした手法へと大きく変革させました。
本記事では、政令市規模での救急DX導入による具体的な効果と、運用を進める中で見えてきた今後の課題についてご紹介します。
(※第37回北海道救急医学会 救急隊員部会研修会 発表内容より構成)
札幌市消防局 概況
人口:1,967,361人(令和7年9月1日時点)
救急隊:37隊(日勤救急隊5隊含む)
救急出動件数:115,539件(令和7年中)

<導入に至る背景と目的>
電話口頭から「データ通信」へ
札幌市消防局では、近年救急出動件数が増加傾向にありました。それに伴い、医療機関への受入照会回数も増加し(令和1年: 1.33回 → 令和4年:1.96回)、現場活動時間の延伸(令和1年:17.8分 → 令和4年:24.4分)が顕著になっていました。
これにより、傷病者の予後への影響が危惧されるとともに、救急隊員の労働負荷増加が大きな課題となっていました。
そこで、受入照会時間の短縮や迅速・円滑な活動、そして隊員の負担軽減を目的として、救急隊アプリの導入に踏み切りました。

<救急隊アプリによる新手法>
視覚的な情報共有を実現
従来は、紙の引継書への手書き記載と、電話口頭での説明がメインであり、受入を断られた場合は次の病院へ同じ説明を繰り返す必要がありました。
新しい運用では、救急隊アプリに入力したデータを送信することで、医療機関側と「視覚的な情報共有」を行います。
現場での入力負担を減らすため、画像OCR、音声入力、スクリブルといった入力補助機能を活用。お薬手帳やマイナ救急のサマリーOCRも可能となり、心電図や外傷画像などを直接送信できるようになりました。
医療機関側もダッシュボード上で視覚的に情報を閲覧でき、受入判断の迅速化や初療の早期準備に大きく寄与しています。

<救急隊アプリの効果>
受入照会時間を短縮し、搬送困難事案を減少
運用開始後、明確な定量効果が現れています。
受入照会回数:1.72回(令和5年) → 1.46回(令和7年)に減少
受入照会時間:9.68分(令和5年) → 8.24分(令和7年)に短縮
搬送困難件数:7,363件(令和5年) → 4,293件(令和7年)に減少
市内88の救急告示等医療機関のうち66施設が参画し、実に搬送人員の約9割がアプリでデータ共有されています。
また、救急隊員へのアンケート(n=153)では、約半数の隊員が「負担が軽減した(かなり+少し)」と回答。その理由として「病院連絡時の説明が短縮した」「引継書の作成(データ入力)が楽」といった声が多く挙がりました。

医療機関側へのアンケート(n=24)でも、過半数(15施設)が「受入決定までの時間が短縮した(短縮+やや短縮)」と回答しています。

<救急隊アプリの課題>
運用で見えてきた3つの課題
確かな効果を生む一方で、大規模運用ならではの課題も浮き彫りになっています。
① 現場と医療機関への浸透
新しいシステムであるため、救急隊員の操作習熟や、医師等への浸透には一定の時間を要しました。運用開始から現在に至るまで、救急隊員からのフィードバックをもとに、業者と隔週で打ち合わせを行い、デバイスの操作性の最適化を継続的に進めています。

② 消防OAシステムとの連携の壁
現在の報告書への反映は、閉域網である消防OAの制約上、執務用PCでQRコードを読み込んで反映する手動の手法にとどまっています。負担は軽減しているものの効果は限定的であり、今後、消防OAの更新にあわせたシステム連携が求められています。

③ レスペーパー化のさらなる推進
参画する66施設のうち、引継ぎ方法を「データ送信のみ」としているのは36施設(出動全体の61.8%)にとどまっています。
また、現在報告書は紙で決裁・保管されており、引継書と合わせると年間約24万枚にのぼります。真のレスペーパー化に向けて、データ引継ぎ可能な医療機関の拡充と、消防OAシステムの更新とあわせた新手法の導入検討が課題となっています。

救急DXは本質を変えるものではない
札幌市消防局の事例は、救急隊アプリが情報伝達をいかに効率化し、現場の負担軽減と市民サービス向上(搬送時間の短縮)に直結するかを示す好例です。
発表の最後では、
「救急DXにより収集した情報を医師に伝達するという救急活動の本質が変わるものではない」
という重要なメッセージが語られました。
未解決の課題である「システム間のシームレスな連携」や「完全なレスペーパー化」については、今後、医療機関、関係機関、システムベンダーの協力のもと整理・解決を進めていくとのことです。
政令指定都市における救急DXの今後のさらなる発展が期待されます。
(文責:TXP Medical株式会社 EMS Collection編集部)



