情報の渦を、DXで“意思決定の力”に
吉田
ICUの特性は、重症患者に対応するため治療や全身管理に必要な情報が膨大であり、情報収集・分析の負担が他の現場と比べて大きいことが挙げられます。加えてICUは複数診療科の医師や多職種が多く行き交う場であり、円滑な情報共有によるチーム協働も不可欠です。各プレイヤーは同じ情報を見ていても異なる視点で解釈・理解するため、それらの情報を統合し、共有するプロセスもICU診療における要となります。
園生
24時間体制で治療・ケアを行うICUでは、円滑な引き継ぎ業務も極めて重要となります。しかし、重症患者は病態が複雑で管理項目も多いため、患者個々の全身状態を把握する負担は大きく、引き継ぎ業務の苦労も課題です。場合によっては患者一人の全身状態を把握できるまで30分程度を要することもあります。
吉田
電子カルテは縦に長く情報が流れていく“巻物”のような構造であり、必要情報の抽出が容易ではありません。また、各プレイヤーはそれぞれ電子カルテから独自の基準で情報を抽出・解釈するため、同じ患者の情報を見ていても、認識や判断に相違が生じることもあります。しかも、その思考過程が可視化されていないため建設的な議論に発展せず、宗教対立のような状況に陥ることもあります。
ICUでは、こうした情報探索の負担や、情報共有・統一が重要な課題となっていますが、これらの解決を後押ししたのが【NEXT Stage ICU】の導入でした。
園生
【NEXT Stage ICU】の設計コンセプトは、患者状態を「一元的」に把握できる環境の実現です。重要となる情報を「一画面・一レイヤー」に集約したダッシュボードを採用し、診断名、重症度スコア、ToDoリスト、Problem List(問題リスト)、引き継ぎサマリなどをひと目で確認・共有できるよう設計しています。これによって、情報の収集・整理の負担が軽減され、情報共有の効率化につながることが期待されます。
情報の“一元化”と“型化”がもたらすICU改革
吉田
【NEXT Stage ICU】との出会いは、研究用のデータベースの構築に活用できるプラットフォームを探していたことがきっかけでした。調べてみると研究だけではなく、臨床現場の課題解決にもつながるツールであることを知り、導入を決めたんです。
園生
研究目的でデータ入力を求める立場と、診療に直結する業務を優先したい立場の間では、目的の違いから対立が生じることもあります。【NEXT Stage ICU】は、臨床データを標準化されたフォーマットで収集できるため、日常診療の負担を増やすことなく、研究活用のデータベースも構築することができます。しかも、救急・集中治療の汎用性を重視した設計となっており、どの施設であっても同様の形式でデータを取り扱えるため、多施設共同研究のプラットフォームとしても活用できます。
吉田
【NEXT Stage ICU】の導入は、私の着任によって東京慈恵会医科大学附属柏病院に集中治療部が発足し、新たな診療体制を構築する必要があったタイミングで行われました。園生先生をはじめTXP Medicalのスタッフの方々と協働しながら、自分たちの診療スタイルに合わせてシステムを調整・最適化していったのですが、施設ごとに異なる運用にも柔軟に対応できる点も非常に優れていると感じています。
園生
【NEXT Stage ICU】は、ダッシュボードの画面レイアウトや印刷機能など、各施設の診療スタイルに応じて柔軟にカスタマイズできる設計となっています。また、導入後の定着支援は最も重要だと考えており、弊社では専任スタッフが導入後の定着支援や継続的な伴走支援も行うなど、各施設の診療フローや医療現場のカルチャーに適合させるための運用サポート体制もしっかり整えています。
【NEXT Stage ICU】の実際の使用感や導入による成果について、吉田先生はどのように評価されていますか。
吉田
ICUでは多臓器にわたる膨大な情報を俯瞰し、重要度や優先度に応じて情報を取捨選択することが求められますが、“巻物”のような電子カルテではその把握が容易ではありません。
一方、【NEXT Stage ICU】は情報が「一元化」・「型化」されて整理されるため、必要な情報が立体化して見えるんです。呼吸器系や循環器系など臓器別に情報がグルーピングされており、かつ、重要な情報に焦点を当てる設計がされているため、患者の全体像を直感的に把握しやすい。そのため、膨大な情報の中でも重要点を効率よく把握でき、臨床判断につなげやすい感覚があります。
さらに、複雑な患者情報がダッシュボード上で整理・可視化されることで、医師や多職種間の共通理解も促進され、思考プロセスの共有もしやすい。その結果、カンファレンスやチームでの意思決定もスムーズになりました。
園生
患者情報の引き継ぎ・共有は、ICU内だけでなく、ER(救急外来)からICU、ICUから一般病棟への転棟時、さらには急変対応時にも重要です。【NEXT Stage ICU】は、こうした院内の患者移行や急変対応を見据え、ERからICU、そして一般病棟までシームレスな情報共有や、RRS(院内急変迅速対応システム)にも対応した設計になっていることも特徴です。
吉田
ICUでは、引き継ぎにおいて情報を漏れなく共有することは現実的に難しく、膨大な情報の中から“不要な情報をいかに削ぎ落とすか”が重要になります。引き継ぎでは、単なる電子カルテのコピー&ペーストではなく、【NEXT Stage ICU】によって必要情報が取捨選択され、整理された状態で共有できるため、アセスメントに至るまでの流れもスムーズです。
園生
【NEXT Stage ICU】では情報が「一元化」・「型化」されているため、それを印刷すれば必要情報が全て整理された状態で一枚になって出てきます。非常に合理的ですし、「型化」によってチームマネジメントもしやすくなると思います。
吉田
そうですね。マネジャーの立場としては、各プレイヤーが共通の思考枠組みに基づいて診療を行うことが、医療の質の均てん化につながると考えています。【NEXT Stage ICU】による「型化」は、その共通の視点や考え方を組織全体に自然と浸透させられる点でも大きな価値があります。「同じ枠組みで考えてほしい」と指示をしなくとも、システムそのものが共通言語として機能するため、シフト制であっても診療の連続性が保たれやすく、チーム全体の足並みが揃っていく実感もあります。
働き方改革時代の新たなICU教育モデル
吉田
【NEXT Stage ICU】は、研修医やレジデント教育にも役立っています。ICUでは臓器ごとの情報を統合しながら臨床判断を行う必要がありますが、【NEXT Stage ICU】では「この臓器を評価する際には、この情報を見る」といった形で思考のガイドが明示されており、ICUの経験が初めてでも一定のレベルまで自走的に患者アセスメントを進めることが可能です。教育コストの軽減にもつながりますし、研修医やレジデントも複雑な電子カルテを読み解く負担が軽減されることで、ゲーム感覚に近い形で診療に取り組むことができ、ICU診療の面白さも実感しやすいのではと感じています。
園生
「医師の働き方改革」が始まったことで、限られた勤務時間内で教育の質と効率をいかに高めるかが重要な課題となっています。その解決策の一つとして、ある程度システマティックに「型」を提示し、まずはその「型」に沿って基本的なスキルや思考プロセスを習得できるようにする方法は、とても合理的な教育アプローチだと思います。
吉田
それと、【NEXT Stage ICU】のダッシュボード画面の“見栄えの良さ”もいいですよね。若い先生が見学に来られた際に大きなインパクトを与えることができるんです(笑)。
園生
若い先生方は「教育・研究の充実」や「働きやすさ」をしっかりみています。見学時に、医師たちがICU温度板を見ながらたくさんメモを取って、回診後に医局の一番若い先生がPCに打ち込んでいる姿を見てしまうと、「ここはちょっとないな」と思ってしまう(笑)。【NEXT Stage ICU】の導入は若手医師への訴求力という観点でも大きな意味を持つのではと思います。
吉田
ICUは臨床・研究と多くの問いが生まれる分野であり、「考えるという知的ゲームを、体力の負荷なくできること」がICUの面白さだと思っています。しかし、情報整理に大きな負荷がかかると、その面白さを十分に感じることがなかなか難しくなります。【NEXT Stage ICU】は、臓器別など「型化」によって情報整理を効率化しつつ、アセスメントや治療戦略の部分はプレイヤーの判断に委ねられる設計になっているため、思考の自由度を保ちながらも情報の扱いはシンプルになり、ICU診療の面白さも実感しやすい。【NEXT Stage ICU】は、ICUをより魅力的で面白い診療領域へと発展させる力も持っていると感じています。
電子カルテでは困難なリアルタイム共有の有用性
吉田
医療の質や医療安全の担保という点では、例えばICUのクオリティ・インディケーター(QI:医療の質指標)として、ストレス潰瘍(SUP)や深部静脈血栓症(DVT)の予防実施状況を【NEXT Stage ICU】のダッシュボード上のチェックリストに組み込み、確認しやすい形にしています。チェックが入ると色が変わるため視認性が高く、抜け漏れの防止にもつながっています。また、血糖値や抗菌薬といった重要なデータもひと目で確認できるようにアレンジしています。こうした機能は、通常の電子カルテの構造では実現が難しいんです。
園生
人間は異常検知の能力が実はそれほど高くはなく、チェックリストがないと引き継ぎ時間などの人が入れ替わる、あるいは忙しい場面では抜け落ちることもあります。チェックリストによって全員が同じ手順で確認できることで、医療安全の落とし穴を塞ぐことができる。チェックリストは人間の認知的な弱点を補うものとしてすごく理に適っています。
吉田
ICUの現場では発生するマルチタスクも多く、ToDoリストも不可欠です。【NEXT Stage ICU】では、通常の電子カルテでは実現が難しい、ToDoリストの複数医療者による同時共有・更新を可能にしています。誰がどのタスクを完了したかがリアルタイムで可視化されることで、チーム全体で進捗を同期しながらマルチタスクを管理でき、対応漏れや二重対応を防ぐことができます。
また、ToDoリストにチェックが増えていく様子が可視化されていることは、小さな達成感を生み出し、医療者のモチベーション維持にも寄与します。こうした積み重ねが、「この組織で働き続けたい」「ICUは面白い」と感じてくれるための大事な要素だと感じています。
園生
まさにそうですね。近年、急性期医療の現場に携わる医師のバーンアウト(燃え尽き症候群)が話題になっていますが、成果が可視化されることは、モチベーションの維持において重要な要素です。また、こうした可視化や情報共有の仕組みは、組織としての一体感の醸成にもつながると思っています。
重要なのは予測ではなく“臨床を動かす”AI
園生
ICUには膨大な臨床データが存在するため、AIによるデータ解析や急変予測は技術的に多くの可能性を持っています。しかし、AIによる予後予測や急変予測モデルは、未来の傾向を示すだけで、患者の生存率向上やQOL改善に直結するものではないため、実臨床における価値には一定の限界があります。
ICUにおけるAI活用の本質は予測にとどまらず、「予測をどう解釈し、どのような臨床的アクションにつなげるか」といった予後改善のための臨床支援にあると思っています。
吉田
医療では患者への説明責任が重要であり、AIの「ブラックボックス的な意思決定支援」には限界があります。最終的な意思決定は人間が担うため、たとえAIが高精度な答えを導けたとしても、その過程が不透明であれば臨床現場での意思決定を大きく左右する存在にはなりにくいでしょう。
園生
重症患者の診療では、病状の複雑さから「唯一の正解」が存在しにくく、治療方針にも一定のバリエーションが生じます。そのため、治療の選択には納得感や合意形成が重要になります。吉田先生がおっしゃる通り、AIが最適な選択肢を提示しても、その解釈や患者・家族への説明、納得形成を担うのは医療者です。説明と納得形成は人間同士のコミュニケーションが本質であり、その傾向は長い歴史から見ても未来永劫、大きく変わることはないと思います。
吉田
AIに期待しているのは、膨大な患者情報を要約し、既往歴や検査結果、治療経過から重要なリスクや注意点を一瞬にして抽出・整理してくれることです。こうした機能が実現すれば、医師の負担を大幅に削減することができます。
園生
そうですね。【NEXT Stage ICU】の今後のソリューションとしては、「人間の認知能力の限界を補完する仕組みの実装」が重要な方向性になると考えています。例えば、検査値の異常な変動やチェックリストの実施漏れなど、見逃してはならない情報を適切に検知し、必要なタイミングで提示する機能です。アラートファティーグ(頻回なアラートによって重要な警告への感度が低下する状態)を回避するため、AIが状況に応じて通知の優先度や頻度を最適化できれば、臨床現場における意思決定支援の価値は一層高まると考えています。
吉田
人間は繰り返し提示される情報に対して感度が低下する認知特性を持っています。ダッシュボードの視覚的な提示方法をさらに工夫し、重要な異常に対してはポップアップ表示がされるなど、直感的かつ強い注意喚起を促すような視覚的なソリューションの進化も期待しています。
園生
そういった機能が実現すれば、少人数の医療体制であっても安全性を確保しながら質の高い医療提供も可能になります。医療者の判断と実務を直接支援するシステムとして、どこまで進化させていけるかが、ICUをはじめとする高度急性期医療の質と安全性、さらには持続可能性を左右する重要な要素になると考えています。