今回は、実際に「透析DX」を日常の業務の中でご活用いただいている、臨床工学室長の大下幸到さんにお話しを伺いました。
「透析DX」の活用シーン
透析の治療経過を定期的に記録する透析記録業務を「透析DX」を活用して行っています。透析業務においては、透析液や血液の流れ、除水量、透析液の温度、抗凝固薬の注入量などを調節・監視するために、時間経過とともに心拍数、血圧、などのバイタルサインや、透析コンソールの各種設定情報など、数多くの項目をカルテに転記する業務が必須です。これまでは全て手作業で行ってきましたが、「透析DX」の導入により、スマートフォンのカメラで透析モニター等のデータを撮影するだけで、データを読み込むことができ、転記作業が不要になりました。電子カルテにも簡単にデータを移すことができるので便利です。現在は、透析センターのスタッフ5名(臨床工学技師3名、看護師2名)がこちらのシステムを活用して業務を行っています。
導入メリット1:マンパワーではどうにもならない “ヒューマンエラー”の防止に
実際の導入後、一番大きなメリットだと感じているのは、ヒューマンエラーを未然に防止するための対策を強化できたことです。マンパワーでは、その発生を完全に防ぐことができない以上、具体的な対策が求められます。当院では、透析記録業務を基本的には60分間隔で行っており、患者さんの容態に合わせてより細かく(15~30分間隔で)記録する場合もあります。透析記録は作業の回数が多い分、数値の書き間違え、計算ミス、グラフのプロットミスなどのヒューマンエラーが発生する確率が高いことに課題を感じていました。ミスを見逃してしまうと投薬量などに影響を及ぼしてしまうため、常に複数のスタッフによる二重、三重チェックが必要で、この確認作業が現場の大きな負担となっていました。
「透析DX」の導入により、データの転記ミスが発生するリスクを大幅に減らすことができるだけでなく、手計算の必要性もなくなったことが、ヒューマンエラーの抑制に大きく貢献していると実感しています。入力した情報は透析記録形式での印刷も可能で、手書きの文字よりも判読性が優れているため、確認作業も効率よく、円滑に進めることができるようになりました。
導入メリット2:業務効率化により、患者さんとのコミュニケーションUP
「透析DX」の導入により、透析記録業務にかかる時間が1/3ほどに短縮されたような体感があります。さらに、読み込んだ数値データを手入力することなく簡単に電子カルテへの送信、データの一元化をすることも可能になりました。
透析記録業務にかかっていた時間を大きく短縮できたことで、患者さんのケア、コミュニケーションにかけられる時間が増えたことを実感しています。私たちは限られた時間をどこに使うかを考える際に、患者さんのことを第一に考える必要があると常日頃から意識しています。できる限りの業務効率化を図ることで、患者さんに直接使える時間を増やせるよう、今後も努力を惜しまず、様々な対策の可能性を模索していきたいです。
導入までの経緯と、今に至るまでの道のりは?
昨年11月から病院全体の医療業務をデジタル化する動きがあり、その一環として病院事業管理者である平林直樹先生のアイディアで「透析DX」の共同開発を行うことになりました。導入のきっかけは、平林先生が参加された学会のランチョンセミナーでTXP medical社の活動を知り、そのOCR技術を透析領域にも活用できないかと問い合わせたことだったそうです。お互いのビジョンがマッチしていることを確認した上で、何度も定例会議を重ねながら開発を行なったため、スタッフも一致団結して同じ方向性で歩みを進められました。TXP medical社のチームには現場をよく知る医師がいて、綿密なヒアリングをしていただきながら進めていけたのも、プロジェクトが円滑に進んだ鍵だったと感じています。さらに、既存の技術を活かした開発であったため、スピーディーにプロジェクトが進み、最初の問い合わせから3〜4ヶ月後くらいで導入に至りました。
実際の現場にフィットするものを提供していただいたおかげで、導入後のスムーズな運用につながっています。実際の業務は写真を撮るだけなので、スマートフォンを使い慣れていないスタッフでも、すぐに使いこなすことができています。
今後の展望: 「透析DX」の機能を向上させ、システムの普及に貢献したい
今後もチーム一丸となって「透析DX」の共同開発を続けていきたいと考えています。実際に現場で活用する中で見えてくる更なるニーズを反映し、一緒により良いシステムにブラッシュアップすることを目指していきます。今後は、日本透析医学会をはじめとした、各種関連学会などでのシステムの普及活動にも携わる予定です。様々な課題が山積みでデジタル化の遅れをとっている業界の発展に貢献することを目指して活動を進めていきたいです。