2021.06.08
プレスリリース東京ベイ・浦安市川医療センターを中心とした国内四病院との多施設前向き共同研究を開始 〜 「NEXT Stage ER」を用いた臨床診断・予測ルールの前向き妥当性検証 〜

TXP Medical株式会社(本社:東京都文京区、代表取締役:園生 智弘、以下 TXP Medical)は、東京ベイ・浦安市川医療センター(研究責任者:救急集中治療科部長 舩越拓)を中心とし、「NEXT Stage ER」を用いた臨床予測ルールの妥当性を検証する前向き多施設共同研究を開始いたしましたので、お知らせいたします。
【背景】
救急外来の臨床現場においては、病歴や症状、所見などから診断や予測を行う臨床予測ルール(clinical prediction rule)が用いられています。しかし臨床予測ルールの多くは海外で開発されたルールであり、日本の救急外来でもそのルールの性能が担保されているかどうかは明らかでありません。そこで本研究ではこれらの臨床予測ルールの妥当性を日本の救急外来で検証するだけでなく、得られたデータを元に新たな臨床予測ルールを開発することが目的です。
【今回の取り組み】
当社のNEXT Stage ERが導入されている国内四病院の救急外来において、軽症頭頸部外傷に対する臨床予測ルールの前向き検証を行います。
<本取り組みに参加する病院>
東京ベイ・浦安市川医療センター
京都府立医科大学附属病院
済生会宇都宮病院
日立総合病院
【TXP Medicalの果たす役割】
従来の電子カルテシステムでは日常診療の中ではSOAP欄に診療記録を残し、研究データの収集は全て手作業で実施する必要がありました。
しかし、TXP Medicalの提供するNEXT Stage ERを用いることで下記のように前向き研究におけるデータ収集の作業効率向上、現場の負担を大きく軽減させ、かつ質の高いデータを得ることが可能になります。
① NEXT Stage ER上に情報チェックリストを表示させ入力を容易にする (前向き研究のEDCと日常診療時の記載媒体の一元化)
② 臨床情報および研究目的で入力したデータ抽出をワンクリックで可能にする
③ 該当主訴や診断名を自動スクリーニングしてアラートを出すなど症例リマインド機能
またNEXT Stage ERは主訴や病名などの表記揺らぎを自動で構造化するため研究を容易にし、この構造化の妥当性はAcute Medicine & Surgery誌より報告されています(PMID: 32884825)。
【東京ベイ・浦安市川医療センター 救急・集中治療科 部長 舩越拓】
成人における軽症頭頸部外傷は救急外来受診患者の主訴の7%程度を占める非常に一般的な症候ですが[1]、5%–15%程度に頭蓋内の出血や頚椎の骨折を認めると報告されています[2,3]。これらの疾患を検出するためにはCT撮像を行うのが望ましいですが、どのような患者に撮像すべきかの判断に際して、国内において妥当性が検証されたガイドラインは存在しません。
一方、日本国内の救急診療では常に熟練した救急医が診療にあたる体制は確保されておらず、非専門医でも現場でCT撮像の適応を判断することを求められています。非専門医にとって正確な適応の判断は困難な場合が多いにも関わらず、日本国内において軽症頭頸部外傷に対する質の高い臨床予測ルールは開発されておらず、海外で開発された臨床予測ルールの多くは妥当性が検証されていません。
海外で開発された臨床予測ルールを日本国内で検討することは重要です。その理由として、1) 外傷時の出血・凝固反応が人種によって異なること、2)日本は医療機関・CTへのアクセスがよいこと、などから海外で検証された結果をそのまま用いることができないからです。したがって日本国内において、これら既存のルールが一般化できるかどうかは不明であり、放射線被曝や医療コストの面から過剰な画像検査を避けるためにも、これらのルールの検証と応用が必要であると考えられます。また、既存の臨床予測ルールでは、1)65才以上や70才以上は全例にCT撮像が勧められている、2)抗血栓薬を内服している患者は除外されている、といった問題点が存在します。
以上より、既存のルール検証並びに新規ルールを開発することで医師の専門性に関わらず、高齢化社会に対応した信頼性の高い判断基準による診療を実施可能とし、患者の安全を確保しながら被曝と医療費を最小限に抑えることを実現するものとなります。
(研究責任者:舩越拓、研究分担者:後藤匡啓)
参考文献
1. Middleton K, Hing E. National Hospital Ambulatory Medical Care Survey: 2003 outpatient department summary. Adv Data. 2005(366):1-36.
2.Stiell IG, Clement CM, McKnight RD, Brison R, Schull MJ, Rowe BH, et al. The Canadian C-spine rule versus the NEXUS low-risk criteria in patients with trauma. N Engl J Med. 2003;349(26):2510-8.
3.Stiell IG, Clement CM, Rowe BH, Schull MJ, Brison R, Cass D, et al. Comparison of the Canadian CT Head Rule and the New Orleans Criteria in patients with minor head injury. Jama. 2005;294(12):1511-8.